各種の施設、商店街や観光地イベント会場などで、そこに訪れる人が手軽に音声情報を入手できるシステムです。
訪れる人の利便性を高め視覚障害者、健常者に役立ちます。
本システムは、AMラジオを端末機器とし、発信機から出される電波をキャッチして、音声情報を得ることができます。
様々な音声による案内システムがある中で、本システムは受信機端末が一般の携帯ラジオで対応できる点がこれまでに無い特徴です。
また発信機も、小型軽量であるとともにセルフ録音ができるなど誰もが手軽に扱うことができます。
発信機の録音スイッチを操作し、音声を録音すると発信機から2~3mの範囲でAMラジオより、その音声が聞くことができます。
AM電波の特性から、発信機に近づけば近づくほど音声が明瞭になるため、視覚障害者にとっては、大汎の位置把握に役立ちます。
発信機には、ラジオが対応する周波数が設定されており、(1620kHzを標準とし変更可能)AMラジオ側ではその周波数にダイヤルを合わせることによって、
発信機に録音された音声を聞くことができます。
AMラジオは市販製品のものを用い、スピーカー式のもので1000円程度、イヤホン型のものは100円ショップでも販売されており、イベントなどではノベリティとして扱う事も可能です。
プロジェクトゆうあい 松江事務所 田中隆一
平成12年、高井拓夫氏(当時鳥取リコーマイクロエレクトロニクルに勤める電気技術者)によって AMラジオを端末に使う音声発信機の試作機がつくられた。
高井氏は自宅近くに盲学校があり、通学生の様子をよくみかける、視覚障害者の役に立つ装置を開発したいと考えて、この装置を完成させたのだ。
装置内の半導体に録音したメッセージをAM微弱電波で発信し周囲3~5メートル程度の範囲で利用者が市販の携帯ラジオで受信し、音声を聞き取るというのがその機能である。
従来の視覚障害者向け音声案内システムがいずれも高価なものばかりであり、広く普及していないことから、この装置(仕組み)を考え付いたという。
てくてくラジオの雛形がこのときに生まれたと言って良いだろう。
この装置(システム)は、発信機が安価であり受信端末が携帯型ラジオで対応できる点が大きな特徴である。
一方、島根県松江市で、天神町商店街において、福祉のまちづくりを進めていたことから、計画技術研究所が間に入り、この町で高井氏の開発した装置を使うことができないか、ということを提案した。
当時、国のモデル事業で「歩いて暮らせるまちづくり」のモデル地区として、天神町商店街が指定されていたこともきっかけとなり、月に一度歩行者天国となる天神町商店街において、実証実験を実施することになった。
平成12年7月23日、日曜日、全盲の三輪利春氏のアドバイスを受けながら、天神町商店街に面する約15の店舗に音声発信器を設置し、お店の案内を、商店主の声で発信器に吹き込んでもらった。
その日にあわせて、10数名の視覚障害者の方々が天神町にこられ、持参の携帯ラジオを片手に通りを歩く、「声のウィンドウショッピング」が実現した。
歩いていくと、ラジオから店主の声で「ここは○○パン屋です。
ちょうどクリームパンが焼き上がったところですよ」などの声が手もとから聞こえてくる。実験に参加された視覚障害者から「楽しくまちを歩くことができた」などの一定の評価を得るとともに、新聞、テレビ、ラジオにも大きく取り上げられることになった。
その後、14年度、15年度にしまね産業振興財団より助成認定を受けることがをはずみとなり、改良型の発信器を開発するとともに、各種施設、道路空間などにおいて、本システムの利用の可能性を幅広く検討した。
また、横浜で開かれた日本リハビリテーションカンファレンスという学会での発表を通じて、音声案内システムに関わる様々な企業、大学等との情報交換ができ、このシステムが、日本全国を見渡しても、ユニークであり、可能性の高いことを確認した。
15年以降には境港市の水木しげるロード、大田市の大森町などの観光地をはじめ、さまざまな公共施設、宿泊施設等において、本システムを数多くデモンストレーションし、機器としての性能、安定性だけでなく、運用上の問題、課題などもクリアにしていった。
16年度には、独立行政法人情報通信研究機構の支援を受けることも決定し、いよいよ、音声発信器の最終改良バージョンを開発するとともに、発信器の量産体制を整えるに至り、16年12月に、微弱電波音声案内システム「てくてくラジオ」として商品化されることになった。
商品化とタイミングを合わせて、当時建設中であった、美保関町庁舎への本システムの採用が決まり、その後、島根ライトハウスライブラリー、名古屋盲人情報文化センターなどへと、広がりを見せている。